変わったな、って思うのはふとした瞬間だ。
 前より少し、無気力さが抜け、前よりかなり女関係が落ち着いた。
 村田優はフェロモンを垂れ流しているような無気力な男だった。友人としてはいいが、奴の彼女になるのはごめんだな、って思うぐらいにマメじゃない奴だ。
 歴代の彼女は、告白して、長くて一ヶ月。短くて一週間で痺れを切らして別れている。
 だから、村田に彼女らしき人と3ヶ月以上付き合ってるって事実を知ったときは驚いたものだ。
 夏祭りに、相手は知れた。なんとびっくり、相手は男だったのだ。

 村田優は、バイト先斜め向かいの花屋のアキナリいや、シュウヤ君とまだ付き合っている。

 村田とはよくバイトが重なる。今日も一緒にまかないを、隅のほうで一緒に食べている。二人でいても、何かしら会話が少ない。というのも村田は人の話を聞いていないから、会話にならない。
「なあ」
 珍しく、村田のほうから話しかけてきて、私は顔を上げる。
 そして、珍しく歯切れが悪い。いつも用件だけしか言ってこないくせに今日は何も言わずにじっと私のほうを見てくる。
「何?」
「あのさ……」
「……」
「……」
「やっぱりなんでもない」
「言いかけてやめないでよ。気持ち悪い」
「ああ、うん。あのさ」
 もっと近くに来いと、手招きされる。よると、耳打ちする。
「男同士ってさ、セックスできるの?」
「はあ!?」
 何を言っているんだこいつは。
 村田は、その一言を言って開き直ったのか、今度は平然と言ってのけた。
「てか、ぶっちゃけさ、俺と秋也どっちがヤられる方だと思う?」
 いやいや、ぶっちゃけスギでしょう。仮にも私は女なのだ。二人の事情を知っているからといって、そんなこと相談されても困る。
「そんなの、本人に聞きなさい」
「一理あるな。でも聞くのは恥ずかしい」
 まったく恥ずかしくなさそうに言い放つ。というか、私に聞くのは恥ずかしくないのか?
「私が言ったら、あんたはそれを真に受けるの?」
「まさか、参考までに」
「だったら、秋也君に直接聞いてきなさい。」
 そういうと、村田は黙り込んで何か考えているようだ。私はやっと話が終わったとまかない料理に口をつける。
「でも俺、秋也じタタないし」
 ポツリと、トンでも発言をしてくれたおかげで、私は口に入れたものを危うく噴出しそうになった。
 村田に、真の恥じらいというやつを誰か教えてやってくれ。

 村田は顔がいい。どう批判的に見てもいい男の部類には入る。けど性格がどうもいけない。
 そもそも男友達の顔がよくて得することなんてほとんどない。大体私は背が高いおかげで彼氏ができにくいというのに、隣にこんなやつがいたら、それこそ彼氏ができない。
 何かあったらすぐ呼び出すくせ、人の話を聞いてない。
 今日もまた、呼び出された。
 村田の呼び出しは一方的だ。何時にどこで待ってる。そんなメール一言で、返事を返してもメールは帰ってこないから性質が悪い。でも、なんか憎めないから困る。
「お待たせ」
「おー」
 そしてなんだかんだ言いながらも来る私。基本的にはいいやつなんだよ、村田は。
 待ち合わせ場所には村田のほかに、もう一人背の高い男いた。見たことないような男だが、たぶん村田の友達なんだろう。
「こっち、瀬戸友香。で、こっち宮田圭。」
「は、はぁ」
 いったい何なのか。いきなり呼び出されたと思ったらこれだ要領を得なくて困る。
「宮田にお前の話したら紹介してくれって。お前、今彼氏いないんだろ?じゃあ、あとは二人でがんばれよ」
「え、あ、ちょっと!!」
 そういうやいなや、村田は勝手にいなくなる。残されたのは私と宮田さんだけ。気まずげに彼のほうを見れば、申し訳なさそうな表情を浮かべてる。
「ごめん。村田に紹介してって頼んだらこれだもん。改めて宮田圭です。」
「あ、こっちこそ。どうも瀬戸友香です。」
 笑顔が素敵な好青年。ここしばらく感じなかった、恋の予感がした。


 幸せというものは、他人に分けたくなるもらしい。
「なんかいいことあったの?」
「まーね。」
 あんまりにこやかな私に、シュウヤ君はいぶかしげな視線を投げかける。残念ならが、この笑みが収まることはなさそうだ。
 シュウヤ君は店に飾るための花束を作っている。一見不良だけど、根はいい人だ。村田に、かなりの勢いでべた惚れなのはどうかと思うけど。
「何、ジロジロみてんの?」
「いやいや。あ、シュウヤ君誕生日はいつなの?」
 もう9月に入った。秋也、というぐらいだ秋に生まれたんだろう。
「俺?9月15だよ、明後日」
「ふーん」
「はい、完成。」
「あ、うん。ありがとう。シュウヤ君、村田が9月15日は空けとけって」
「マジ!?」
 とたん、笑顔になる秋也君。なんて判りやすいんだろう。これはこれで、かわいいのかもしれない。まあ、村田のシフトはそんなことになってないだろうけど、そういうことにしておこう。
 そう、幸せは、分けてあげたくなるものなんだ。
「瀬戸さん、彼氏できたの?」
「まーね。このあいだ村田が紹介してくれたの」
 満面の笑みで私は頷く。
「あと、秋也君相手なら、村田下でもいいってさ」
 そんなことも言ってない。でも、幸せは分けてあげないと。
 にっこり笑って、私は花屋を後にした。
 後は、いかにして村田に休みを取らせるか。だ。



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